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遺産の不動産を売却して遺産分割する場合は煩雑

遺産に不動産がある場合、その不動産の取得を希望する相続人がいない場合や取得を希望しても他の相続人に代償金が払えない場合は、不動産を売却した上、代金から諸経費を控除した金銭を相続人間で分配するということが行われます。いわゆる換価分割です。現実の収支に即して相続割合で分配したり負担したりするので、公平ともいえますが、結構、時間、費用、手間がかかるのが通常です。

まず、登記名義が故人の名前になっているままいきなり買主の名義にできないので、相続登記をしなければなりません。この手続きを想定してこなかった相談者は結構多いです。その際、法定相続分の割合で相続人が共有の登記をする方法と相続人の1人を代表としてその者の単独名義にする方法があります。前者は、相続人各自の権利を登記や売買に明確に反映するところが利点ですが、相続人が多数だったり、相続人同士の親密度が薄いと、誰にいくらで売るかといった意思決定や書類作成などの手続に支障がでます。代表相続人1人の名義にすれば、比較的煩雑度は下がりますが、一方では、相続人間で主従関係ができるような感覚が生じて嫌われる場合があります。

第2に、相続人は売却します。相続人間で、どの不動産業者に頼むか、売値をいくらに設定するか、という協議が行われます。

第3に精算があります。売却代金から、諸費用を控除して、相続人間で分配をします。

第4に譲渡所得税の支払いを要する場合があります。この過程をみていくと、相続登記の際には司法書士、売却の際には不動産業者、境界確定や測量をする場合は土地家屋調査士、相続税や譲渡所得税の申告の際は税理士、といった具合に様々な専門家が必要になります。その上、紛争性があると弁護士を依頼する場合もあるでしょう。このように換価分割というのは結構、煩雑で負担が多い手続きですし、専門家への依頼も縦割りになりがちですので、当事務所ではこれらの手続きを依頼者のために統括的に支援することを基本としています。紛争性がなくても弁護士を依頼することにより円滑な処理が望めます。紛争性がない場合は弁護士費用も割安になります。

そして、生前に相続対策を相談する方に対しては、換価分割の問題点を説明し、生前処分、遺言書作成、代償金の確保といった対処法を案内することもよくあります。

所有者不明のまま放置されている土地

所有者不明の土地が増えていることが、社会問題になっているようです。そのような土地の総面積が九州の面積を上回っているようですが、2040年になると北海道の面積に迫るとも予測されています。所有者不明の土地があることによる経済損失は6兆円とも試算されているようですから、所有者不明の土地を減らしたり、活用しやすくしたいものです。公共事業では土地買収や土地活用の障害となっているようです。

弁護士業務では、2世代も3世代も前の故人のまま土地の登記名義が残っていて何十人にも分散した相続人と遺産分割協議をしないと相続登記ができない案件が持ち込まれることがありますが、こういう案件は大変手間がかかり土地活用の障害になっていることを実感します。費用対効果の観点から手続きをあきらめる相談者も珍しくありません(問題先送りでますます複雑化します)。

最近盛んになっている太陽光発電では、今まで注目されていなかった土地が太陽光発電用地としての需要が生じたりしていますが、注目されていなかっただけに、登記名義人が故人になっていて現在の所有者がわからない土地や実態がなくなった会社の抵当権登記が付いたまま放置された土地がしばしば存在し、発電用地にするために結構な手間がかかっています。10年や20年も占有し続ければ他人の土地でも時効で取得できるから時効制度も有効活用できるのではないかと考える方もいるかもしれませんが、時効で登記名義を変えようとしても権利を失う側を探してその者を相手に裁判をしなければならず、やはり結構面倒です。

今の制度ではそのような不便には対応できないので、法整備をしてもらいたいものです。30年相続登記をしないで放置していると権利を失うとか、放置していると高い固定資産税がかかるとかという荒療治も検討されてもいいのではないでしょうか。国土交通省では、不明な土地所有者の状態のまま土地利用権を設定できる制度を検討しているようです。

電話会議

民事事件や家事事件で当事務所の最寄りの裁判所は東京地方裁判所ですが、東京から遠方の裁判所の事件を受任する場合もあります。

遠方の裁判所に出廷する場合は、弁護士は依頼者から交通費や日当をいただきますが、例えば大阪の裁判所に行くには新幹線を使った交通費だけでも往復3万円近くかかるわけで、裁判が長引いて5回も10回も出廷する場合は、旅費日当は結構な負担になってしまいます。

そこで、民事裁判や家事審判では、結審や証人尋問など重要な局面でなければ裁判所は電話会議の方法で裁判を進めてくれる場合があります。その場合一方当事者の代理人弁護士は裁判の期日に事務所で待機して電話で対応します。依頼者にとっては裁判の経費が節約できますし、弁護士が多忙な時には大変助かります。

そういう点で電話会議は便利な制度なのですが、過度の依存は禁物です。電話会議で裁判所に出廷した側は裁判官の面前で話すわけで、当然のことながら、受話器越しの当事者よりも、アピールしやすいですし、裁判官の表情や会議の雰囲気という情報量も多いです。裁判官と弁護士が現地で顔見知りということもありましょう。主張書面や証拠の扱いは公平を心がけたとしても非公式な部分での不利感は否めません。

そこで、裁判の序盤の証拠提出や争点整理はいいとしても、争点についての議論や和解条件の調整のような場面ではやはり直に出廷したほうがいいにこしたことはありません。 依頼者からみると費用負担のほうに関心が行きがちですが、当事務所では、直に出廷することの重要性も説明するようにしています。

証人尋問

弁護士の仕事としてよく思い浮かぶ1つとして証人尋問があると思います。法廷ドラマでも証人尋問がクライマックスになっていることはよくあります。そういうことで証人尋問が弁護士の主要な仕事を思われるかもしれませんが、実際は証人尋問をする機会は少ないです

半年に1回とか1年に1回なんていう弁護士はザラにいます。民事訴訟の場合は、証人尋問の前に和解で終了することが結構多いのです。しかも、証人尋問の実技は司法試験にはありませんし、研修でも一部の研修生が模擬裁判で少しだけ経験する程度です。ですので、弁護士の資格を取る際には証人尋問の才能は問われないのです。証人尋問の技術は、弁護士になってから実践で学んで身につけることになります。

ところで、本人訴訟で民事訴訟をする方は、証人尋問も本人がやらなければなりません。その時よく感じるのは、当事者本人が尋問すると、相手を論破しようとしたり、自説を演説したり、という内容になってしまうことが多いということです。裁判官からは、「自分の意見を述べるのではなく質問をしてください」「議論にならないように」と注意されるような場面がよくあります。本人訴訟の方は国会等で政治家が行う質問や討論のような感覚で尋問をするように思えます。

裁判の場では、尋問で自説をアピールすることは二の次で、尋問によって、相手の主張や立証の矛盾点や信用性のないことを裁判官にわかるようにあぶり出せばいいのです。ですから、証人がおかしな証言をすれば、「それはおかしいでしょ」と責めるよりも、おかしなことを言わせっぱなしにして、裁判官に対して「この証人はこんなおかしなことを言っていますよ」ということをわかってもらうようにします。

尋問に先立つ陳述書

民事訴訟で本人尋問や証人尋問を行う場合、自分側が尋問申請した当事者本人や証人については陳述書を書証として提出するのが慣例になっています。陳述書には証言予定者が事件に関係ある経験や自分の考えを書きます。陳述書の作成者を法廷で尋問するのになぜあらかじめ陳述書を書くのかというと、尋問時間を節約するのと反対尋問の準備のためです。

自分の側が申請した証人については、あらかじめ打ち合わせができ、法廷で言わせたいことも決まっているので、陳述書に整理しておいて尋問時間を少なくて済むようにします。相手方は証人の証言の信用性を崩すための反対尋問をします。その際、陳述書があって、その証人が法廷で証言したいことがあらかじめわかっていれば、その証言の信用性を崩すにはどんな質問をすればいいかあらかじめ検討でき、充実した反対尋問ができるというわけです。証人申請した側からすればあらかじめ証言内容を相手方に知らせるのは得策ではないと思われるかもしれませんが、それはお互い様ですし、むしろ反対尋問をされても証言内容が動揺しなければ、証言の信用性はより高まるわけで、反対尋問に耐えることは立証にとって大事な要素です。

その陳述書ですが、作成名義人が好きなように書くことは希です。裁判に必要なことをわかりやすく書き、かつ不利にならないようにするために、代理人弁護士が関与するのが通常です。ただ、裁判対策の要素に重点を置きすぎると作成名義人は自分の陳述書なのに書いてあることをよく理解できない状態になり、反対尋問で答えに詰まったり、うっかり不利な証言をしてしまうこともあります(尋問中は陳述書を見ながら答えさせてくれません。)。裁判対策も考慮しつつ本人も理解できて自分の言葉で語れるような陳述書にする工夫が必要です。

預貯金当然分割説の変更

昨年10月20日付けのブログで書いた、遺産の預金を相続人間の遺産分割協議を経ずに法定相続分の割合で預金を下ろせるかについて、昨年12月19日に最高裁判所の大法廷の決定で、2004年(平成16年)4月20日の最高裁の判例を変更して、預貯金は遺産分割の対象になるとしました。

法定相続分の割合で相続人各人が預貯金を下ろせるという判断が変更されたのです。15人の最高裁判事全員一致の決定です。確かにこのようにしないと、生前贈与をたくさん受けた相続人がいる場合に預貯金の取得で調整する機会が奪われますから預貯金当然分割説は不合理でした。また、預貯金を遺産分割の対象にすることにより、他の遺産の価格にばらつきがある場合に取得総額を調整しやすくなる利点があります。

一方で、遺産分割協議が長期化した場合は、葬儀費用や相続税など当面相続費用や同居の遺族の生活費について預貯金が活用できなくなる問題があります。そのような問題に備えるために、ますます、予め遺言書を書いておくとか、受取人を指定した生命保険の利便性が着目されるでしょう。あと、遺産分割待ちで塩漬けになってしまう預貯金の問題を立法によって解決する議論もあるようです。

預金と遺産分割について判例変更の見込み

遺産の預金を相続人間の遺産分割協議を経ずに法定相続分の割合で預金を下ろせるかについて、10月19日に最高裁が口頭弁論を開いて審議したというニュースが結構手広く報じられました。

この問題については2004年(平成16年)4月20日の最高裁判決で遺産分割不要という判断がでましたので、裁判実務ではこの判断にならっていました。ところが、10月19日に大法廷で口頭弁論を開いたということは重大案件でかつ、従前の最高裁判例を変更されるだろうということを示しています。

年末か来年初頭にでるであろう最高裁判決は法律の専門家の関心度が高いことはもちろんですが、相続一般への影響も大きいでしょう。生前贈与を受けた相続人がいる場合、遺産分割において、生前贈与を含めて遺産分割協議をするのが公平であるところ、各自が預金を引き出せてしまうと生前贈与による調整ができないという問題に焦点があたっています。この点はもっともであり、判例変更の流れは是認できますが、一方では、遺産分割協議が長期間まとまらないために預金のロックが解除されないとその間の葬儀費用やその他の相続債務の支払に困窮したり、被相続人と生計を共にしていた遺族の生活費が困窮してしまうという問題があります。最高裁が真逆といえるほどの方針転換するかまではわかりませんが、遺産の預金は引き出しにくい方向に変わりますので、今後は、早期の金銭取得のために遺言や受取人指定の保険で備える必要性が増すでしょう。

相続情報証明 手続き簡略化へ

本日の朝日新聞の朝刊等に法務省が相続情報証明を発行する制度を創設し、平成29年5月に実施するという内容の記事がありました。この制度は相続手続に携わる専門家にとっては関心度が高いです。

 相続によって不動産の名義変更をしたり、預金を解約するような場合は、相続人が誰かを証明するために、被相続人や相続人の戸籍を集めて法務局などの役所に提出又は提示しなければなりません。20年も30年も相続手続きが放置されている場合や、被相続人の戸籍歴が複雑な場合は、集める戸籍の分量が多くなり相続人の確認作業に手間がかかりがちです。相続手続きの過程で一度はきちんと相続人の確認作業をしなければなりませんが、名義変更を受け付ける役所ごとに戸籍を提出又は提示したり、相続人の確認作業をしてもらうのは、煩雑だと感じていました。新制度が導入されれば、名義変更を申請する側が一度正確な相続関係図を作って、法務局に正確な相続関係図であることを証明してもらえば、他の名義変更窓口では相続関係を戸籍でなく相続関係図で証明すればよいことになります。相続人の確認作業が簡素化されれば、作業効率がよくなり、公費や手続き費用の削減につながります。

 弁護士としては、法務局の証明がついて相続関係図が、裁判所への申立てでも使えるかが気になります。現在は、遺産分割、遺留分減殺、遺言書検認といった申立ては、被相続人の生まれてから死亡するまでの戸籍と相続人の戸籍を提出しなければなりませんので、この提出が不要になるのは基本的には好ましいことです。ただ、慎重な裁判所が今回の簡素化に賛同するかはまだ未知数です。

株式の譲渡制限では万全でない

中小企業の株式は、定款で譲渡制限が定められていて、取締役会等の承認がなければ譲渡できないとされていることが多いです。このような定めによって、会社にとって望ましくない者が株主になることを防止しているのですが、譲渡制限をしておけば万全かというとそうではありません。会社が合併する場合や株主に相続が発生した場合は、譲渡制限の定めがあっても新参の株主の出現を阻止できません。このような弊害に対処するため平成18年5月に施行された会社法では、定款に定めることにより、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを相続人等に請求できる権利を認めました(会社法174条)。

売渡請求は相続等を知った日から1年以内に行使しなければなりません。そして、売渡し請求後売買価格を双方で協議しますが、売渡し請求から20日以内に協議による売買価格が決まらなければ裁判所に売買価格の決定の申立てをしなければ売渡請求は効力を失います。また、買取りには会社の財源上の制約があります。

このように売渡請求権の行使には制約も多いですが、会社側主導で新参株主の出現を阻止できるメリットは非常に大きいです。当事務所でも会社の定款を見ることは多いのですが、会社法施行に対応して売渡請求権を規定している定款は少ないです。会社経営者としては、定款に売渡請求権を追加してもそれだけで害になるものではありませんから、株式の3分の2を支配できているのなら、売渡請求を定めておくのがいいでしょう。

限定承認は少ない

相続人の資格を得た場合、相続権を行使する「単純承認」、相続権を放棄する「相続放棄」、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務について責任をもつという「限定承認」という3つの選択肢があります。

限定承認は、プラスの遺産とマイナスの遺産のどちらが多いか直ちには判断し難い場合に、単純承認して損失を被るリスクを回避することができます。これだけ聞くと限定承認は便利な制度と思うかもしれません。しかしながら、限定承認は相続放棄の申述をした人を除くすべての相続人が家庭裁判所に申述(申立て)をしなければなりません。加えて、遺産に含み益をかかえている(買値より時価が上がっている)不動産等がある場合、売却しなくても、みなし譲渡所得課税(所得税法59条)がかかります。詳しい説明は省きますが、この税負担は、プラスの遺産<マイナスの遺産の場合はさほど問題にならないのですが、プラスの遺産>マイナスの遺産の場合は、重い負担になり、単純承認した方がよかったということになりがちです。

そういうわけで、いいとこ取りでお得な制度にみえる限定承認ですが、実務での利用はかなり少ないです。司法統計にもその実情が現われています。平成26年の日本全国の裁判所が受け付けた件数をみると、相続放棄の申述(申立て)の件数は18万2089件なのに対し、限定承認の申述(申立て)の件数はわずか770件に留まっています。

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