コラム

2016/04/08 コラム

限定承認は少ない

相続人の資格を得た場合、相続権を行使する「単純承認」、相続権を放棄する「相続放棄」、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務について責任をもつという「限定承認」という3つの選択肢があります。

限定承認は、プラスの遺産とマイナスの遺産のどちらが多いか直ちには判断し難い場合に、単純承認して損失を被るリスクを回避することができます。これだけ聞くと限定承認は便利な制度と思うかもしれません。しかしながら、限定承認は相続放棄の申述をした人を除くすべての相続人が家庭裁判所に申述(申立て)をしなければなりません。加えて、遺産に含み益をかかえている(買値より時価が上がっている)不動産等がある場合、売却しなくても、みなし譲渡所得課税(所得税法59条)がかかります。詳しい説明は省きますが、この税負担は、プラスの遺産<マイナスの遺産の場合はさほど問題にならないのですが、プラスの遺産>マイナスの遺産の場合は、重い負担になり、単純承認した方がよかったということになりがちです。

そういうわけで、いいとこ取りでお得な制度にみえる限定承認ですが、実務での利用はかなり少ないです。司法統計にもその実情が現われています。平成26年の日本全国の裁判所が受け付けた件数をみると、相続放棄の申述(申立て)の件数は18万2089件なのに対し、限定承認の申述(申立て)の件数はわずか770件に留まっています。

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