ブログ・コラム

裁判の手数料

前回の記事で印紙税のことに触れたついでに、訴状等に貼る収入印紙の話をします。

民事訴訟を提起して審理してもらうには、訴え提起手数料がかかり、その金額を収入印紙等によって裁判所に納めます。手数料の金額は、もし勝訴したら原告が受ける利益を基準にして決まります。

第1審で被告に100万円請求する訴訟なら1万円、1000万円なら5万円、1億円なら32万円です。控訴審なら1.5倍、上告審なら2倍の金額になります。ちなみにアメリカでは、訴える金額にかかわりなく200~300ドル位の手数料になっています。権利を侵害されている人の立場からすれば、手数料は定額で少額の方が裁判所を利用しやすくて歓迎するでしょう。ただ、国民の全体の立場でみると一概に手数料は少ない方がいいとはいえません。

手数料が低額化すれば、訴訟が提起しやすくなる分、理不尽な訴訟が増えて巻き込まれる迷惑も増えそうです。それに、裁判所の運営費は、手数料収入だけの独立採算でできるわけがありませんから、税金が投入されています。そうなると、裁判所のヘビーユーザーや無茶な訴訟にかかった裁判所の運営費の大半は納税者の負担になってしまいますが、それでは不公平ですし納税者も納得し難いでしょう。

ですので、私からみると手数料はもう少し低くして欲しいが、極端に低くするのは消極的という考えになります。

ちなみに、離婚や遺産分割等の家庭裁判所の調停や審判の手数料は、1200円と800円という2つ手数料体系が主体となっていて低額に抑えられています。こちらは、家庭の問題について裁判所を利用しやすくしようという福祉的配慮があるのだと思います。

弁護士の領収証と印紙税

弁護士が顧客から法律相談料や報酬をいただいた場合、領収証を発行しますが、領収証に収入印紙を貼らないので、「大丈夫?」と思う方がいるかもしれません。しかし、弁護士が業務上作成する受取書は、「営業に関しない受取書」として印紙税が非課税とされていますので、収入印紙を貼らなくても大丈夫なんです。

根拠条文は印紙税法第5条別表第一・17の2で、営業に関しない受取書は非課税物件とされています。「営業に関しない受取書」に該当するか否かについては、国税庁の通達があって、印紙税法基本通達では第17号文書の解釈として、「弁護士、弁理士、公認会計士、経理士、司法書士、行政書士、税理士、中小企業診断士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、建築士、設計士、海事代理士、技術士、社会保険労務士等がその業務上作成する受取書は、営業に関しない受取書として取り扱う。」と定めています。

それでも世間からみると収入印紙を貼らない違和感がありうるので、東京都弁護士協同組合が販売する弁護士用の領収書綴りには、印紙税が非課税であることと根拠条文が記載してあります。ちなみに委任契約書も非課税ですので、弁護士が依頼者との間で作成する委任契約書にも収入印紙を貼りません。

文書の電子化が進みつつありますが、ひとたび紙ベースで処理しようとすると印紙税の課税文書か否かの判断に悩まされますね。

山田公之

相続財産法人とは

現行の民法第951条には「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とする。」と規定されています。私が学生時代初めてこの条文に接した時は、「相続は人の死亡に関わる事象なのに会社のような『法人』になるとはどういうこと???」といった疑問がわきました。

しかしながら、この規定はちゃんと存在意義がありますし、相続財産法人が成立することは決して珍しいことではありません。典型的な事案は、遺産もあるが、債務の方が多い、といった遺産が債務超過の場合です。この場合は、被相続人の配偶者、子供、親兄弟が全員相続放棄をして相続人がいなくなることがよくあります。こういう場合に、遺産は誰の所有なのか、相続債務の債務者は誰なのか、が決められなくなってしまうので、相続財産法人が遺産や債務についての権利義務の主体になるのです。ただ、法人といっても人の結合体ではありません。財団法人の一種といえるでしょう。

相続財産法人については裁判所が相続財産管理人(令和5年4月1日からは名称が相続財産清算人となる)を選任して、その管理人が会社の代表取締役や財団法人の理事長のように、相続財産についての管理や意思決定をすることになります。相続財産法人は新規の活動を予定していないので、相続財産管理人が清算業務を行い、消滅に向かうことになります。

山田公之

振込手数料どっちが負担

民法の原則では、振込手数料は振り込む側の負担です。現行民法では「弁済の費用について別段の意思表示ないときは、その費用は、債務者の負担とする。(第485条)」と規定されています。それなのに、「振込手数料はご負担ください。」と書いてある請求書はよく見かけます。このような注意書きがないと振込手数料を受領者負担にしてしまう人がいるからでしょう。
例えば、債権者が集金する習慣があった取引などでは、集金するコストを考えたら振込手数料くらい安いではないかという感覚があるかもしれません。新聞、光熱費、NHK受信料も集金する習慣がまだ残っています。

 では、納品のコストはどうなのかというと、巷に多数出回っている製品(不特定物)であれば、民法では相手の住所に届ける義務あるとされていますから(第484条)、納品のコストは納品する側が負担するが原則で、振込手数料の負担の場合と均衡がとれています。
しかし、現状では、送料は顧客負担のことが多く、振込手数料も顧客負担が原則だと、顧客側は負担が多いと感じることでしょう。しかし、送料や振込手数料をどちらが負担するかは、民法の原則を特約で修正することができますので、両方顧客負担とする契約も認められます。顧客としては、送料や振込手数料を含めた商品価格を念頭に買うか買わないかを判断するということになりましょう。

無理筋事件

最近、相手方に勝算がないような事件の裁判でも弁護士の代理人が就いて大いに争ってくる事件が増えたように思います。ですので、勝ち筋でも抵抗に対抗するための時間と費用を考えておかなければならなくなっています。

10年以上前なら、成果が見込めないから、大半の弁護士が依頼を断ったであろうと思われる事件でも弁護士が就いて真っ向から争ってくるようなことが珍しくなくなりました。これも弁護士が増えて無理筋や負け筋でも依頼を受ける弁護士が増えたのでしょう。依頼する側からすれば、昔のように何軒も断られ続ける事態が少なくなって歓迎すべきことといえなくもありません。しかし、無理筋や負け筋の事件は成功報酬が望めませんから、弁護士が受任する場合は、着手金やタイムチャージ(時間単位の報酬)に重きを置くことになります。そうすると、負け筋の事件で結果も負けになった場合、弁護士を依頼した分だけ余計な費用がかかったことになります。

そのことを依頼する段階で承知していればいいのでしょうが、「引受けてくれる弁護士さんが見つかったのだからきっといい成果が出る」と期待していた場合は、落胆は大きいでしょう。一昔前のように、引受ける弁護士が見つからない方が早めに無理筋の事件ということがわかって余計な費用がかからなくてよかったという見方もできるでしょう。

当事務所では、成果が見込めない事件の受任は慎重にしています。無理筋、負け筋でも、和解等の円満解決に価値がある場合、少ない勝算に賭ける価値がある場合等は受任しますが、その時は、過大な期待をされて後で気まずくなっても困るので、十分想定される事態を説明して納得してもらってから受任するようにしています。
時には、「あの弁護士は弱気だ」と思われるかもしれませんし、業績向上のためには事件を選んでいてはいけないんでしょうが、やはり後味の悪い思いはしたくないので、安易な受任は避けるようにしています。今のところ、過去の依頼者からの再度の依頼や依頼者からの紹介の案件がそこそこあるので、このような方針でも支持は得られていると思っています。

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