コラム

2020/03/01 コラム

退任後の取締役は競業避止義務を負うか

退任後の取締役による競業の方が退任前の競業より多く紛争も深刻になりやすいと思われますが、原則としては退任後の取締役は競業避止義務は負いません。但し、在任中から顧客を移転し、従業員の引き抜 きをしているなどの先行する行為がある場合(千葉地 裁松戸支部判平20・7・16金法1863号35頁)や、退任後に大量の従業員を引き抜く場合(東京高判平16・6・ 24判時1875号139頁)などの、特段の事情がある場合 には、在任中の委任契約に伴う付随義務として負う競 業避止義務に違反することがあるとされていますので注意が必要です。また、たとえ競業可能だとしても、退任した会社の営業秘密(①秘密管理性、②有用性、③非公知性)をその会社の了解なく利用して競業をすることは不正競争防止法によって規制されていますから、ある程度競業の自由に制約があるといえます。

会社側としては、退任後の取締役が競業をすることを法律上は規制できていないので、退任する取締役との間の合意により退任後の取締役に競業避止義務を課すようなことも行われます。ただ、退任した取締役にも職業選択の自由や生計の途を確保する必要がありますので、その合意に時間的、場所的、職種的に合理的な制限をしておいたり、代償措置をもうけたりする必要があり、そうでないと合意が無効となる場合がありますから注意が必要です。無効にならないようにするために、例えば、競業避止期間を退任後2年間に限り、守秘義務を負わせ、退職慰労金として500万円を支給するといった条件が考えられます。

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