ブログ・コラム

弁護士法人しんらい法律事務所のホームページをリニューアルしました。

ホームページを公開しました。今後も定期的にさまざまな情報を更新してまいりますので、是非ご覧ください。

自筆証書遺言書保管制度

2020年(令和2年)7月から法務局に遺言書を保管する遺言書保管制度が始まりました。広く利用されている遺言は遺言者が手書きで作成する自筆証書遺言と公証役場の公証人に作成してもらう公正証書遺言の2つで、どちらを利用するかは、手間、費用、財産の大小、紛争の可能性を考えて決めることと思いますが、この中間で自筆証書遺言を作成して遺言書保管制度を利用するという方法も考えられます。遺言書保管制度を利用すると、遺言書が公証役場に保管されバックアップもとられるので、遺言書が行方不明になったり滅失して遺言が活かされなくなる危険がなくなります。そして、遺言書は、遺言者の死亡前は相続人らに内容は知られたくないものの死亡後は発見してもらえないと意味がないのですが、遺言書保管制度では、法務局で保管してあるという保管証を入手でき、相続人らが法務局で遺言書をみることができるのは遺言者が死亡してからになるので、遺言の存在が不明であったり死亡前に内容を知られるのを防げます。遺言者の死亡後、手間と時間がかかる家庭裁判所による遺言書検認の手続きが不要なのも大きな利点です。法務局に遺言書を預ける時は必ず本人が行かなければならないのは面倒ですが、預ける際に、遺言書の押印や日付の記載等の外形的な確認が受けられて無効になるのを防止できるのも利点です(但し、遺言の内容そのものにはかかわりません。)。保管にかかる保管手数料は1件につき3900円(この記事作成時)でそれほど高くありません。ちなみに、公正証書であれば、財産が3000万円なら手数料は2万3000円です(この記事作成時)。

 

財産が多い、相続争いの懸念がある、遺言者の判断能力が問題にされる可能性がある、といった事情があれば、手間と費用をかけて公正証書遺言を作成するのがいいでしょうが、遺言書を書いておくべきであるが、そこまで大きな問題はない、あるいは遺言の内容が変わる可能性があるからまだ手間と費用をかけるほどではないといった場合には自筆証書遺言書を作成しつつもう少しの手間をかけて遺言保管制度を利用して紛失滅失防止や遺言書検認不要という利点を享受するというのもいいかと思います。

 

自筆証書遺言、自筆証書遺言と遺言書保管制度の併用、公正証書遺言はどれも一長一短ありますから、当事務所では、遺言書作成の相談があった場合は、相談者の事情をおききして、目的、遺言者の自筆能力や行動力、費用対効果を考えて、適切な方式をお勧めしています。

利益相反取引

取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき(利益相反取引)は、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならなりません(会社法356条1項2号)。取締役会設置会社においては、株主総会ではなく取締役会の承認が要ります(会社法365条)。

ここで注意すべきは、会社の承認があれば会社が利益相反取引によって損害を被った場合でも利益相反取引を行った取締役が免責されるというものではないことです。更に、利益相反取締役だけではなく、会社側を代表した取締役や、取引の承認の取締役会に賛成した取締役についても任務懈怠が推定され(会社法423条3項1~3号)、損害賠償責任を負う場合があることです。更に、競業については会社の承認がある場合は、損害賠償額の推定規定は適用されないのですが、利益相反取引については、会社の承認を得ていても利益を受けた利益相反取締役や第三者の利益の金額は会社の損害額と推定される規定が適用されます(会社法423条3項には「第356条1項の規定に違反して」という限定がない。)。このように取締役が利益相反取引を行う場合は取締役に厳しい責任が規定されています。

投稿当時の法制を前提としていますのでご注意ください。

退任後の取締役は競業避止義務を負うか

退任後の取締役による競業の方が退任前の競業より多く紛争も深刻になりやすいと思われますが、原則としては退任後の取締役は競業避止義務は負いません。但し、在任中から顧客を移転し、従業員の引き抜 きをしているなどの先行する行為がある場合(千葉地 裁松戸支部判平20・7・16金法1863号35頁)や、退任後に大量の従業員を引き抜く場合(東京高判平16・6・ 24判時1875号139頁)などの、特段の事情がある場合 には、在任中の委任契約に伴う付随義務として負う競 業避止義務に違反することがあるとされていますので注意が必要です。また、たとえ競業可能だとしても、退任した会社の営業秘密(①秘密管理性、②有用性、③非公知性)をその会社の了解なく利用して競業をすることは不正競争防止法によって規制されていますから、ある程度競業の自由に制約があるといえます。

会社側としては、退任後の取締役が競業をすることを法律上は規制できていないので、退任する取締役との間の合意により退任後の取締役に競業避止義務を課すようなことも行われます。ただ、退任した取締役にも職業選択の自由や生計の途を確保する必要がありますので、その合意に時間的、場所的、職種的に合理的な制限をしておいたり、代償措置をもうけたりする必要があり、そうでないと合意が無効となる場合がありますから注意が必要です。無効にならないようにするために、例えば、競業避止期間を退任後2年間に限り、守秘義務を負わせ、退職慰労金として500万円を支給するといった条件が考えられます。

取締役の競業避止義務

定義;①自己または第三者のために、②会社の事業の部類に属する取引をすること

取締役が競業を行う場合は、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならなりません(会社法356条1項1号)。取締役会設置会社においては、株主総会ではなく取締役会の承認が要ります(会社法365条)。

ただし、会社の承認を得ずに競業取引を行った場合でも相手方との関係では当該取引は有効です。

しかし、会社内部では、取締役が会社の承認無しで競業取引を行った場合は当該取締役の任務懈怠があったとして会社は損害を被ったときはその取締役に損害賠償請求できます。そうなると、会社の承認があった競業取引で会社が損害を被った場合は、会社は損害賠償請求できないとなりそうですが、必ずしもそうではありません。会社の承認があっても当該取締役による取引による損害があって当該取締役に任務懈怠があったといえれば会社は損害賠償できます。つまり、会社の承認に取締役の責任を免除する効果はありません。会社の承認のある無しの違いは、会社の承認がない競業取引の場合は、競業取引より当該取締役または第三者が得た利益の額を会社の損害額と推定する規定(会社法423条2項)が適用されるところにあります。

私の業務での実感では、中小企業の場合、競業について会社の承認を得る事例はそれほど多くありません。会社の承認が必要ということで取締役が競業を思いとどまる場合もあるでしょうが、会社の承認という規制を無視したり承認の手続きの理解不足の場合も相当あるように思います。それでも承認がない競業によるトラブルはそれほど発現していません。おそらく、株式の過半数以上を持つオーナー社長による競業があっても不問に付される場合が多いからでしょう。

 

投稿当時の法制を前提としていますのでご注意ください。

住民票の保存期間が150年に

令和元年6月20日以降に作成された住民票や住民票の除票は150年保存されることになりました(本投稿時の住民基本台帳法施行令第34条第1項)。政令の改正前の保存期間は5年間だったので、大幅に保存期間が延びました。また、平成26年6月20日以降に作成された住民票や住民票の除票も廃棄前に政令が改正されたので保存期間延長の対象となり得ます。

住民票や除票の保存期間が短いことは、商業登記や不動産登記に記載されている人物と民事の判決書に記載されている人物と連絡が取れなくなるという問題がありました。即ち、登記簿では会社の役員や不動産の権利者については住所が記載されていますが、住所が移転しても登記簿に反映せずに放置されることがままあり、10年、20年と年月が経つと登記簿の住所から住民票をとって生死や現在の住所を調べようとしても、住民票が5年で廃棄されてしまったことで現在の情報に行き着かない問題がおきます。戸籍は既に150年保存になっていますが、登記簿には本籍は記載されないので、いわゆる「所有者に連絡がつかない土地、」「所有者不明の土地」の問題が起きてしまっています。民事裁判の判決書も本籍が記載されないので、10年近く経って強制執行しようとしても相手の住所が調べられないようなことがあります。所有者と連絡がつかない土地について、民事紛争なら、相手方行方不明という扱いで裁判をすることもできなくはありませんが、法的紛争ではなく、公共事業や再開発などで土地の買い上げの交渉をする場合は、相手探しに大変な困難を伴い、相手方が見つからなくて断念せざるを得ないこともあります。これでは、土地の有効活用はできませんし、公共事業で連絡先を探す手間暇には税金が投じられる訳ですから、納税者に余計な負担をかけることになります。

住民票や住民票除票の保存期間が150年になった今後は登記簿等の古い住所の記載でも現在の住所までたどれるようになることが期待でき、所有者不明の土地や古い住所しかわからなくて連絡がつかない問題の解決に役立つと思われます。一方では、税金や強制執行については所在不明により免れることがより難しくなるでしょう。

民事法定利率改定 2020年4月から

法定利率とは、利息がある金銭債権で利率が決まっていいない場合や支払遅延が生じた際の遅延利率が決まっていない場合に法律の定めによって適用される利率のことで、今まで民事は年5%、商事は年6%と固定されていました。しかし、民法の改正によって2020年4月1日から民事商事いずれも年3%になり3年ごとに見直しが行われることになりました。市場の金利は頻繁に変動していますし、低金利が続く昨今だと年5%の法定利率は高すぎるという考えに基づいています。固定利率が変動利率になったわけですが、見直しは3年ごとですし、変動は1%刻みですので、住宅ローンの変動金利のように毎年1%未満でこまめに変動するわけではありません。

新法定利率が適用されるのは、2020年4月1日以降に利息が発生する場合ですから、2020年4月1日以降の契約やその日以降に遅延損害金が発生する場合等となります。例えば、交通事故による損害賠償請求権でしたら、2020年4月1日以降に発生した事故に年3%が適用されます。交通事故や医療事故等で死亡したり後遺症が残ったりした場合の損害賠償金は、将来得られたであろう利益(逸失利益)が賠償の対象になり、将来分の利益を前倒しで賠償されることになるので、中間利息の控除が行われます。この場合は、法定利率が下がることは賠償額が増えることになります。支払遅延に対する制裁は低くなるのですが、逸失利益は被害者有利になるということです。そして一度当該債権に発生した法定利率はその後法定利率の見直しがあっても当該債権では見直しにはなりません(当事者の合意があれば別)。

民事信託の利用について

最近、民事信託や家族信託の制度が新聞等で特集されるようになり、信託銀行が行う「商事信託」に対する概念として民事信託や家族信託という概念が世間一般に広まっているようです。これらの信託は、後見制度の代替的役割や財産承継・相続対策の手段として期待されていると思われます。

当事務所でも相談者の側から「民事信託」や「家族信託」のことが話にでることも珍しくなくなりました。ただ、一般市民向けの解説は、民事信託では、後見よりも融通が利くとか財産承継の道筋を付けやすいという利点に向いていて、法律関係がやや複雑になることや実務の蓄積が少なく将来について不確実要素があるという危うさについては、あまり着目されていないように思われます。必ずしも気軽に扱えるものではないことは知っておいてもらいたいと思います。

不確実要素の例としては、遺留分を侵害しそうな信託の設定の問題があります。信託の受益権の価値をどのように評価するかは難問なので遺留分侵害の紛争の解決が困難という懸念があります。また、債務については信託にできません。当事務所では遺言、後見、事業承継等を検討する際には、民事信託や家族信託の利用も検討し、信託の利用が優れていると思われるときは信託の危うさをできるだけ回避しつつ信託の利用をおすすめするようにしています。

成人年齢引き下げ

成人年齢を20歳から18歳に引き下げる法律が成立するようで2022年頃から施行されそうです。既に選挙権は18歳からに引き下げられましたし、中国やロシアなど18歳成人が世界の多数派ですからそれにあわせていくのが順当なところでしょう。弁護士業務からみた18歳成人の関心事は、養育費の支払い期間、少年法の適用年齢、経済面での犠牲といったものがあろうかと思います。養育費はこれまで、「成人に達する月まで払う」という決め方が結構あり、これまでは当然20歳まで払われるという認識でいましたらから2年短縮になるともらう側は不利益になりそうです。改めて話し合いができれば20歳までと決め直すことができますが、話し合いがまとまらず裁判所に判断を求めた場合は法律が定める成人の年齢に従うという判断になりそうです。また、離婚で18歳、19歳の子供の親権者を協議する必要はなくなります。

少年法の適用年齢を18歳未満にするかは、まだ決まっていないようです。18歳、19歳だとまだ少年的保護教育が適することも多いと思いますが、選挙権があるとなると適用外というのも仕方がないかもしれません。

18歳、19歳の人が親から独立してカードが作れたりして経済活動をできるようになるのは経済活動人口の増加には寄与するでしょうが、社会的に未熟であることによる損害・被害は生じるでしょう。

尚、現民法(2018年)には、未成年者でも婚姻すると成人とみなすという規定(753条)がありますが、女性の婚姻可能年齢が16歳であるのが、男性と同じく18歳に引き上げられるようですし、18歳が成人年齢になるのであれば、婚姻によって成人とみなすという規定は不要になります。

債務不存在確認訴訟

債務の履行について当事者間で決着が付かない場合は、通常は、債権者が原告となり、債務者を被告として訴える形になります。しかし、まれに、被告と原告が逆になる訴訟類型があります。それが債務不存在確認訴訟です。通常は、債務者から金銭などの給付を求めたい債権者が自分の権利の正当性と強制執行できる権限を取得するために原告として債務者を訴えますが、債権者の中には、強硬かつ執拗に請求はするものの訴訟を提起しようとしない人がいます。自分から手間と費用をかけて訴訟を起すことが面倒だと考えたり、不当な要求を受け入れさせるためには裁判所を使うと不都合だと考えたりする場合に起こりえます。そういう場合、債務者や債務者と言われている人は、早期解決や不当な要求からの解放を望んで自分の側から訴訟を起すことができます。

債務者側からも訴訟できるとはいえ、やはり訴訟の手間と費用をかけなければなりませんし、債権者が訴えないまま放っておけば時効で消滅するかもしれないのにです。それに、債権者側が「被告」という呼び名になってしまい債権者側の感情を害すこともあるので、債務不存在確認訴訟を提起するのは、早期解決や不当な要求からの解放のためにやむを得ない場合に限定されることになるでしょう。近時は示談屋のような者が介在した不当要求も減っていますし、交通事故で加害者側の保険会社がこの訴訟を推進することも珍しい状態ですから、この訴訟を提起する機会はかなり少なくなっています。

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